土にかなうものはない

まねぎ栽培に着手したのも、10代の終わり。宮本さんは大面積でたまねぎをつくる先輩たちを見て「いつかはこんなふうになりたい。一番になりたい」との志を抱きます。
 ではそのために何をするか。答えはひとつ、土づくりです。
「名人の畑を見れば、やっぱり土がすばらしいの。土にかなうものはない。もちろん施肥設計や防除はしっかりやらないといけないが作物を育てるのは土だものね。人間の腕じゃない」



季節はちょうど苗の植えつけで猫の手も借りたいほどの忙しさですが、「ぼくは植えつけを休んででも行く。これは誰にでもでもできることじゃないんです。よほどの根性がないと」
 土づくりといえば、忘れられない思い出があります。それはある講演会。最初に講師は50代の人に向ってこう言いました。「あなたたちはもう手遅れですから、帰っていいですよ」と。
 要するに土づくりは20年がかりの大仕事。50代から始めても間に合わない、というのです。
「いや、ショックでしたね。それほど長い年月がかかるのかという驚きと『オレは20代。間に合った!』という安堵感。結局講師の言葉は正しかった。土を見て、いい姿になってきたと思えるのは、ここ6〜7年だもの。やっぱり20年かかっている」
 毎年競馬場から運ぶ堆肥は4トントラック100台分!これだけあれば十分すぎるほどで、肥料はほとんど必要ありません。土壌分析に基づいて足りない成分を補うだけです。さらに最近は「畑を自然体に戻すには青いものが必要じゃないか」と感じ、早生の畑に秋まき小麦を植え、跡地に緑肥のエンバクを入れて、畑をまわすようにしています。「土こといのちの源」というう思いは宮本さんのたまねぎ人生を貫く、ゆるぎない信念なのです。


たまねぎ農家の喜びは

本さんは「たまねぎづくりの魅了」をこう話します。
「天候の悪いとき不作のときに、力の差がくっきりあらわれることですよ。納得のいく土づくりをしていれば、少しくらい干ばつでもたまねぎは立派に育つ。多少の病気は土が直してくれる。糖度も相当違うはずです。それは快感、やった!という快感があります」
 もちろんすべてが順風満帆だったわけではありません。新しく買い入れた畑に正体不明の病気が蔓延したときは、からだの震えが止まりませんでした。「そこそこはダメ、常に頂点を目指す」強気の性格だけに、悔しいときはとことん悔しい。半端ではありません。
「だってたまねぎは1年1作でしょ。もし60歳まで農業をやるとしたら、あと10回しかつくれない。1年1年が真剣勝負なんです」
 10年前のその経験が骨身に沁みている宮本さんは毎朝の畑まわりを欠かしません。作物をつぶさに観察することが病気を防ぐ第一歩。雨降りだろうが何だろうが「見えないではいられない。自分が育てたたまねぎだもの」
 それだけに、畑でほれぼれするようなたまねぎを見つけたときほどうれしいことはありません。「品質のいいたまねぎには品があるの。ある程度の大きさで、かたちはまん丸、つやつやの光沢があってね。いや、いいなあ〜と見とれてしまう」
 飾っておきたい気分でしょうね、と言いかけると「ちゃんと飾ってあるよ、ほら」そういって指さしたのは居間の神棚です。なんとそこにはみごとなたまねぎがひとつ。
「一番気に入ったのを抜いてきて、おそなえしているんです。これが喜びだね。うん、喜びだ」
 宮本さんの顔が大きくほころんだ瞬間でした。

ホクレン広報誌 GReen No.199 より


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